« 春の花々~築地市場から汐留あたり~ | トップページ | 今日は何の日? »

2006年4月 2日 (日)

『いつも僕のなかは光』を読んで

数年前、東京オペラシティのコンサートホールに

ウィーンを拠点に活動しているピアニスト、

梯剛之(かけはし たけし)さんのリサイタルを聴きに行ったことがあります。

 

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、

梯さんは網膜芽細胞腫という眼の病気により、生後間もなく失明します。

その後の努力と才能が花開き、今の活躍があります。

 

リサイタルを聴いて、まず

「なんと純粋な音なんだろう。」

と思いました。

学生時代の競争に疲れて疲弊した音を出す人もいる中、

ウィーンの森の風がみえるようなのです。

 

また、アンコールのバッハ”主よ人の望みの喜びよ”は圧巻でした。

パイプオルガンでも弾かれる曲ですが、この曲を弾き始めたとたん、

東京オペラシティのグランドピアノから

パイプオルガンの響きが流れ始めたのです。

一つの音も聞き逃すまい、と固唾を飲んで聴き入りました。

 

そういう演奏の成り立ちを知りたかったので

ご本人が書かれた

『いつも僕のなかは光』(角川書店)

を読みました。

 

本の前半、小学校卒業までは重苦しさが立ちこめます。

順調だった地元の保育園時代の後、

盲学校ではなく地元の小学校に入学を希望したものの

それを受け入れてもらえないくだりは

ハンカチとティッシュが手放せません。

 

梯さんが保育園生だった頃から、点字を教えるボランティアをしていた

中央大学法学部の学生さんが、教育委員会に対して働きかけ

入学を許可してもらったのは、この本で知りました。

 

意地の悪い人も出てくる一方、地元の小学校でやっていけるように

教科書を点訳し、イラストを手触りで分かるように作る

多数のボランティアの人々がいたことにも驚きを隠せませんでした。

楽器を演奏するボランティアしか知らなかったから・・・。

 

梯さんは、幼少の頃から親しんだピアノの能力を伸ばすために

小学校卒業と同時に、ウィーンに渡ります。

今度は義務教育を修了するための問題が出てきました。

 

ここでも人一倍の苦労があり、また言葉の面でも

日本人の中学生が英語を勉強するように

ドイツ語を学んだのだろう、と思われる場面もあります。

 

後半はピアニストとしてのサクセスストーリーが始まり、

ほっとしながら読むことができました。

 

全体を通して、梯さんの母親の存在が光ります。

あるときは人に助けを求め、あるときは梯さんに努力を求め・・・。

梯さんの可能性を信じて、いつもピアノを弾ける環境を支えます。

 

ところで、リサイタルを聴いたときに知りたくなった演奏は

私なりに理解できた気がします。

 

純粋な音は、類いまれなる分解能をもった梯さんの耳によって

どこかの風景が映し出されているのではないでしょうか。

そして、ピアノは競争するためのものではない・・・と語りかけているように、私には思えました。

 

パイプオルガンの響きは、ホールに合った響きにこだわって

耳を頼りに追求し続ける成果の表れだと感じられました。

 

今度ウィーンに行くことがあれば、

街の音や森の音に耳を澄ませてみよう、と思える本です。

|

« 春の花々~築地市場から汐留あたり~ | トップページ | 今日は何の日? »

コメント

音楽系に疎いので興味深く読みました。かけはしって読むのかというのもはじめて知りました。(今後はこういう難しい読みにはカナを振っていただけるとありがたいです・・・って注文つけたりして) ようこさんの耳がうらやましいなあ。
音楽→景色はとても無理です。本も要領よくまとめてくださっているので正直なところ読んだ気になってしまいました。
どこかで話が出たら、自分が読んだみたいに語ってしまいそう・・・。またおもしろいお話期待してます。

投稿: ミセス・シャーロキアン | 2006年4月 3日 (月) 10:43

>ミセス・シャーロキアン
リクエストありがとうございます。早速読みがなを追加しておきました。(笑)
苦心して記事を書いた甲斐がありました。ぜひ語って広めてください。^_^

投稿: ようこ | 2006年4月 3日 (月) 17:58

梯剛之さん、初めて知りました!
本、読んでみたいですねぇ。
探してみようっと★
頑張っている人の本を読むとこちらまで元気をもらいますよね(^_^)
ようこさんのうまくまとめられたあらすじからも元気をもらいました!

投稿: みきぴょん | 2006年4月 4日 (火) 21:50

>みきぴょん
元気になったようでよかったです。^_^
クラシックピアノに詳しくなくても分かる部分が多い本なので
ぜひ見つけてくださいね~。

投稿: ようこ | 2006年4月 4日 (火) 22:49

ウィーンの森の風がみえるような純粋な音。
グランドピアノからパイプオルガンの響きとは!!
並々ならぬ努力をされている梯さんのお名前は、今回
初めて伺いましたが、とても聴いてみたくなりました。
本も読まなくちゃ、ですね~。

投稿: うさちゃん | 2006年4月 5日 (水) 11:51

>うさちゃん
お元気でしたかー?
音で多くのことを表現できるというのは
ピアニストとして素晴らしいことだと思いました。
ウィーンに行きたくなってしまったよ。

投稿: ようこ | 2006年4月 5日 (水) 11:57

用事があって,04/02に銀座に行ってきたのですが,久しぶりな上に慣れない店に入って,かなりおのぼりさん状態でした..
桜あんぱんを買われたのですね.桜の味がしましたでしょうか.

投稿: sunday driver | 2006年4月 5日 (水) 21:40

>sunday driverさん
銀座へのコメントですね~。(^^)
sunday driverさんも銀座に行かれたとは!銀座に行くと、おのぼりさんになってしまいます。(^^;
桜あんぱんは、手の平より小さくて、桜の味というよりは
桜の塩漬けの塩味とあんの甘さがマッチしておいしかったです。

投稿: ようこ | 2006年4月 6日 (木) 00:18

梯さんの本を読み、ネットで検索してこちらに行き当たりました。

素晴らしい文章でしたね。7年かけて梯さん自ら点字で書かれたとか。梯さんの中で何が起こっているのかを、手に取るように話してくださいました。とても精緻に、分析的に音楽に向かわれているのがわかります。なんだか透明人間になって、梯さんの隣に立っているような、ある時は梯さんの中に入ってしまったような、深い臨場感がありました。ピアニストに限らず音楽家という方々に憧れがあって、どんなふうに感じておられるのかをずっと知りたいと思っていたので、今、本当に目の醒める思いでおります。

ようこさんもピアノをなさるのですね。きっと共感されることが多かったことでしょう。
私は中学の時ソナチネ半ばでリタイア。弾く方は全然ですが、梯さんの「熱情」は持っていて、魂の震える名演を時々思い出したように取り出しては聴いていました。今晩また聴いてみようと思っています。読んだ今「耳を澄ませ」ば、少しは深く音が聴こえてくるかもしれません。

ちゃんこ風主婦日記。2017年1月~3月だけまず読ませていただきました。おおらかな文章で、とってもいいですね。
よろしかったらこれから時々お邪魔させていただきたいと思います。
ピアノにまつわるお話、楽しみにしています。
よろしくお願いいたします。

P.S. ここは2006年のコメント欄なので、念のため最近のところにメモだけ載せておきますね。

投稿: さわ | 2017年3月11日 (土) 19:15

>さわさん
こんばんは。コメントありがとうございました。
もう11年も前の日記なのですねぇ・・・。
遠い目をしながら、本のこと、コンサートのことを思い出すとともに、
久しぶりに梯さんの生演奏も聴きたくなりました。

さわさんもピアノを習っていたのですね!
私はクラシックを習った後、
ポピュラーピアノを一から勉強して”アレンジ”という技術を習得、
病院や高齢者の施設などで演奏しています。

まぁ日々勉強、これからも精進します。
ブログは私の励みでもありますので、ぜひぜひまたいらしてください。

投稿: ようこ | 2017年3月11日 (土) 21:25

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/119541/9400767

この記事へのトラックバック一覧です: 『いつも僕のなかは光』を読んで:

« 春の花々~築地市場から汐留あたり~ | トップページ | 今日は何の日? »